私が55歳の時、1つ年下だった夫がクモ膜下出血で急死しました。
あまりに突然の出来事で、目の前が真っ暗になったあの瞬間。
夫の急死に真っ先に頭をよぎったのは「税金」のこと
悲しみと同時に、私の頭をよぎったのは
「これから一人で、住民税や市県民税を毎月払っていけるのだろうか」
という、切実な税金への不安でした。
なぜ、そんな極限状態で税金のことが浮かんだのか。
それは、夫が若かりし頃、一時期フリーランスとして働いていた時の記憶があったからです。
当時は会社員と違い、自分たちで税金を工面して納めるのが本当に大変で、夫婦で苦労した経験が深く心に刻まれていました。
そんな予期せぬ恐怖が、夫を亡くした衝撃と共に襲ってきたのです。
しかし、結果は「住民税非課税」となりました。
「税金を払わなくていいの?!」
住民税非課税になる主な条件、に寡婦という項目があったのです。
そんなことは全く知らなかったので、これには少しだけホッとしました。
そして、よく分からないまま、手続きに行ってみると、遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類あることを知りました。
夫は会社員でしたので遺族厚生年金を受け取れる事になりました。
子供はおりませんでしたが、私は55歳でしたので65歳になる手前まで「中高齢寡婦加算」と言う手当がプラスされる事になりました。
その時強く感じた事があります。
「遺族基礎年金」では、子供のいない配偶者は受給できないという事でした。
もし自分がその立場(夫が自営業などで遺族基礎年金しか出ない立場)だったら、夫を突然失ったうえに、これからどうやって生活していけばいいのだろう。
他人事ながら暗澹たる気持ちになりました。
さらに、ニュースで知って驚いたのが、遺族厚生年金の受給資格の見直しです。
制度には条件や経過措置がありますが、将来的には受給期間が変わるケースもあると知り、
「残された人の生活は、これからどうなるのだろう」
と考えさせられました。
夫の死をきっかけに、それまでほとんど関心のなかった税金や年金、社会の制度について、少しずつ考えるようになったのです。
生活費を抑えるために田舎へ移住した結果
それから2年後。
私は少しでも生活費がかからない場所で暮らそうと、田舎へ移住する決意をしました。
ところが今になって思うのです。
「田舎は生活費が安い」というのは、私にとっては幻想でした。
名古屋に住んでいた頃は、車がなくても生活できました。
ところが、ここではスーパーや100円ショップ、病院へ行くにも車がほぼ必需品。
当然、ガソリン代もかかります。
車検、保険、税金、メンテナンス……。
生活費を抑えるために田舎へ来たはずなのに、車の維持費が重くのしかかってきました。
しかも私には、車について大きな不安がありました。
実は過去にコンビニでアクセルとブレーキの踏み間違い事故を起こしており、
「60歳になったら運転をやめる」
と決めていたのです。
ところが移住してみると、80歳になっても90歳になっても、簡単に車を手放せるような環境ではありませんでした。
近所の88歳の女性は、買い物にタクシーを利用されています。
「今までは電話で呼んでも迎車料金はかからなかったのに、今は呼ぶだけで500円も上乗せされる」
と嘆いておられました。
車を持てば維持費がかかる。
車を持たない選択をすれば、今度は移動するたびにお金がかかる。
これが、実際に暮らしてみて分かった地方の現実でした。
かつて住んでいた名古屋では、70歳を過ぎれば「敬老パス」などでバスや地下鉄が実質無料になるような手厚い福祉があります。
一方、人口が少なく、大きな企業や工場も少ない地方自治体では、住民税や法人税などの自主財源にも限りがあるのでしょう。
そこへ私のような住民税非課税者が移住してきたのですから、自治体としてはさらに厳しいだろうな……と申し訳ないような複雑な気持ちにもなります。
歩道の穴とボランティアの草刈り・肌で感じる「税収」の少なさ
その「財源の少なさ」は、日課のウォーキングをしていても肌で感じます。
歩道は穴だらけでガタガタ。
歩くたびに転びそうになる場所もあります。
道路脇には草がぼうぼうに生い茂り、都会では見たこともないような光景が広がっています。
それを、近所の方々が朝早くから自主的に草刈りをしている姿を目にするたび、
ここは「行政に何でもやってもらう」のではなく、
自分たちの住む場所は、自分たちで守る。
そんな地域なのだと感じます。
住民税非課税世帯として、この町で生きていくということ
夫を突然亡くし、一人になり、少しでも生活費を抑えようと思って選んだ田舎暮らし。
移住する前に思い描いていた「のどかで、お金のかからない暮らし」とは、ずいぶん違いました。
のどかな景色には今でも癒やされます。
でもその一方で、車を手放せない不安、移動にかかるお金、目に入るインフラの脆さ。
暮らしてみなければ分からなかった現実もあります。
「田舎に移住すれば生活費が安くなる」
少なくとも私の場合、それほど単純な話ではありませんでした。
それでも、ここで暮らしていくと決めたのは私自身です。
住民税非課税という立場でこの町に暮らすこと。
そして、これから年齢を重ね、いつか車を運転できなくなった時にどう暮らしていくのか。
夫を亡くしてから考え始めた「これから一人でどう生きていくのか」という問いは、田舎へ移住した今も、まだ続いています。

